161004 朝日特別面 朝日地球会議より、仏人類学者エマニュエル・トッド氏講演
<きょうの写経>
グローバル化の終焉が近づいている。
貿易が活発化し、人や資本の自由な移動を通じて各国が収斂されていく。
そんな米国的な視点が出発点にあった。
経済で世界を一つにする、というイデオロギーだ。
私は何十年も前から批判してきたが、そんな夢が終わりつつある。
グローバル化を発展させてきた米国と英国の危機によって。
英国は、欧州連合(EU)離脱で、移民の流入を制限することにした。
国家への回帰だ。
米大統領選に目を向けよう。
現在、デタラメな共和党のトランプ氏と、嫌われ者の民主党クリントン氏が、愚かしいキャンペーンを続けている。
トランプ氏は移民制御と自由貿易の拒否を打ち出した。
こうした反グローバルな問題設定に支持者が熱狂している。
米国自体が、グローバル化、新自由主義に耐えられなくなっている。
昨年、米メディアが報じた人口動態の調査によると、45~54歳の白人の死亡率の上昇が明らかになった。
自殺や麻薬、肥満によるものだ。
一部の人たちが不安にさいなまれ、生きていくことに耐えられなくなっているのだ。
民主主義の基盤であるはずの教育によって、社会の階層化が進んでいる。
高等教育の修了者の死亡率は下がっているのにもかかわらず、中間層の死亡率は停滞している。
高等教育を修了し、ハイパー個人主義的な人口の3分の1の人々と、他の人々が分裂していく。
大統領選を報じるメディアを見ると、トランプ氏の支持層は学歴が低く、読み書きもできないと見なされている。
だが、それはエリートの見方だ。
彼の支持層は中間層なのだ。
社会の分断や個人主義に対する反乱が起きている。
私はよく「予言者だ」と言われるが、これは予測していなかった。
メディアはトランプ氏を「ウソつきだ」とこきおろす。
彼女は、候補者氏名受諾の際、「世界が米国を必要としている」と演説した。
だがそんな現実はない。
むしろトランプ氏の「米国は世界に尊敬されていない、米国は苦しんでいる」という言葉の方が真実だ。
断っておくが、私はトランプ支持者ではない。
米国に滞在した時には、ラスベガスのトランプホテルにも泊まってみたが、いいとは思わなかった(笑い)。
だが、クリントン氏はじんましんが出るほど嫌いだ。
トランプ氏が勝てば、苦しむ中間層の支持によるものだといえる。
いずれにせよ、この大統領選でグローバル化の神話は終わり、国家回帰に拍車がかかるだろう。
だがグローバル化の崩壊は悪いことばかりではない。
人間について、経済というより狭いビジョンだけにとらわれず、より政治的、知的な面に光が当たることにもなる。
**
グローバリズムとナショナリズム、そして個人主義。さまざまなスタンスの狭間で、経済と安全保障という二つの基軸の中で、世界はどこへ向かえばよいのだろう。そもそも、そんなコトを考えることなど、答えのない問いに向き合うようなものなのか。トッド氏の「政治的」「知的」な理想とは。視野を広げて、時には世界を考える。憂いてばかりでは辛すぎるけど、心を大きくもつことも大切なのだと感じた。